先史壁画の保存と活用にむけて―フランスを中心に―

1. はじめに

装飾古墳や装飾墓だけでなく、先史時代の洞窟壁画などの原始絵画は、古の人たちの生活風俗を今に伝える貴重な文化遺産です。しかし、描かれた時代の美しさを保存して多くの人たちに見てもらうために、たくさんの苦労が重ねられてきました。装飾古墳は、保存のために密閉されて一般に公開されていないか、公開される時期が限定されています。

写真1 王塚古墳(福岡県) 写真2 弁慶ヶ穴古墳(熊本県)

ヨーロッパのクロマニョン人が残した先史壁画も、発見以来、保存と活用の両立に苦しんできた文化遺産です。ここでは、現地調査にもとづいて、フランスのラスコー、ルフィニャック、ショーヴェという、クロマニョン人たちが先史壁画を残した洞窟を取り上げます。

2. 先史時代の洞窟壁画

ヨーロッパには、世界遺産に登録されている有名な先史時代の洞窟壁画があります。フランス中西部にあるラスコー洞窟やスペイン北部にあるアルタミラ洞窟などです。ここでは、特にラスコー洞窟に絞って紹介します。

ラスコー洞窟は、1940年に少年たちの犬が穴に落ちたことで偶然に発見されました。ラスコー洞窟には、およそ2万年前に描かれた壁画が見つかりました。日本では、縄文時代より前の時期です。壁画には、当時、現地に住んでいた人々が狩りをしていたシカ、オーロックス(原牛)、バイソンなどの動物達が描かれています。一角獣の今では見られない動物も描かれています。描かれた時代は複数にわたっており、動物達の絵が重なっているところもあることが研究からわかりました。現在、ラスコー洞窟は保存のために温度や湿度を管理して立ち入りを制限しています。そのため、ラスコー壁画を精密に再現した模造館のラスコーⅡやラスコーⅣが近くに建てられて、多くの人が見学に訪れています。ラスコーⅣでは、解説員によるフランス語か英語の解説がありますが、渡される携帯端末によって日本語など多言語での解説に対応しています。また、各解説ポイントで自動的に多言語での解説を聞くことができます。計測結果は3D模型のほか、VRで楽しむこともできます。

写真3 ラスコーⅠの保存地区 写真4 ラスコーⅣ外観

フランスには、ラスコー周辺にも壁画が描かれた洞窟があります。ラスコー洞窟から最も近いところにあるルフィニャック洞窟には、木炭でマンモスの絵が描かれています。また、入口からトロッコに乗って1キロも進んだ空間に最深部の広間に多くの鹿や馬などの動物たちが木炭だけで天井一面に描かれています。

また、フランス中南部にあるショーヴェ洞窟は、今から3万6千年前の壁画と考えられています。木炭だけでの壁画のほか、ラスコー洞窟で見られるような動物達が描かれています。また、顔を上下に動かした様子を描いた壁画(写真5)、壁に手をあてて顔料を吹き付けて手形を残した壁画(写真6)もあります。

写真5 ショーヴェ洞窟壁画の動物達
(現地案内版より)
写真6 ショーヴェ洞窟の手形
(現地案内版より)

なお、これらの壁画が描かれた洞窟は、埋葬施設ではなかったと考えられています。現在までのところフランスには装飾古墳は見つかっていません。でも、多彩な壁画を描く文化は、古くからおこなわれてきた地域です。

3. 原始絵画の公開の将来

フランスの取り組みは、装飾壁画を持つ洞窟だけでなく周辺環境を含めた先史的景観の保全がなされています。また最新の計測技術で洞窟を記録し、遺跡環境に配慮しながらの積極的な公開も行なわれています。さらに先史壁画の鑑賞体験をより印象的なものとしてもらうため、最新の解説機器や移動手段としてのトロッコも日本では見られない特徴です。

「見る」壁画から「体験する」壁画へ。古墳と洞窟という違いはありますが、フランスでの活用事例は、原始絵画を持った文化遺産の保存と公開についてひとつの将来展望を示しています。

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